あきのおもいで

 こんにちは。ゆらです。

 私の住んでいた田舎ではお彼岸の頃に、八幡様という武将の神をまつる秋祭りがありました。お囃子がトンボの舞う空に響き、神輿が町を練り歩く。屋台が集まり、夜には花火が上がるという、静かで小さな町が一際ぱっと明るくなるものでした。
 私はその祭りのお囃子や神輿の練り歩きが見るのは好きでしたが、大きくなればなるほどに憂鬱になる祭りで、その日が来ると気分は上がりながらも視線は下を向いていたのです。理由は簡単です。祭りに一緒にいく友だちがいなかったのです。

 孤独は嫌なもので、慣れてしまうシロモノです。でも誰もが家族や友達や知り合いと出かけていく中で、一人、祭りの中を歩くというのは、普段は忘れている孤独という痛みをより感じさせてしまうのです。
 ……その年は、私がこの町で最後に過ごす秋祭りでした。
 その年も相変わらず一人で、私は夜店の呼びかけや、母親の手に引かれて歩く子どもを見ていました。

 私には夢がありました。自分の文章で食べて行きたい。でも私より文章が上手な方はたくさんいるし、作家はとても経済的に大変な職業だと聞いていました。だから諦めていました。
 秋の花火がどん、と打ち上がっている頃に父が迎えに来て、何故か唐突に夢の話になったのです。
「おめは、何になりてぇんだ?」
 そう聞く父に私は諦めていた夢を話しました。
「それは難しいど。でも……そうだなぁ。やりたいことをやれたらいいよな」
 父は私の話すことに、深く深く頷きました。父は農家を継がなくてはいけなかったので、自分の夢をそもそも持てなかった人でした。
「お父さんは、どう生きたかった? 若いころ」
「花火みたいに、一発どんと咲いてみたかった」
「花火じゃすぐ消えるよね。だめじゃん」
「そうかぁ。だめか……」
 父は困ったように笑いました。後ろで花火は打ち上がり、歓声が遠くから聞こえます。
「なぁ。頑張れよ。夢な。諦めるなよ。もしかしたら一冊くらいは本になるかもしれねがらな」
 真面目な声で、父は言いました
 父はその時、ガンの手術で片目を失い、嗅覚をなくし、障がい者でした。そして余命もそれほど長くありませんでした。
 ……私はその時、なんと答えたのか覚えていません。
 真っ白になった頭のなかで、花火の光と音だけが強く強く響き続けていました。